図書館での本のコピーや、引用のやりかたについて、裁判で争われることがあります。これまでに、複写できる範囲や、どのような方法であれば引用と見なされるかなどが、判決で示されました。図書館の利用に関わるとても重要な判決もあります。どんな内容だったのか、見てみましょう。
図書館では図書に掲載された各論文の半分までしか複写できない
どんな内容?:
市立図書館の利用者が、事典(項目ごとにさまざまな著者が分担執筆している)の1項目全部の複写を図書館へ申し込んだところ、図書館が拒否した。利用者は、著作権法第31条第1項第1号にある「利用者の求めに応じ、その調査研究の用に供するために、公表された著作物の一部分」に該当するとして、事典の1項目は"全文複写できる"と主張して争った。
判決は、著作権法第31条第1項第1号の複写できる場合に該当しないので、棄却。
かんたん解説:
「一部分」とはどのようなものか、解釈がはっきり示された有名な判決です。こちらのガイドでも表にした通り、図書は、たとえ事典の中の短い1項目であっても1作品とみなし、「各記事の半分以下」までとされました。
この事典の場合、1項目ごとに作者が明記されている点、事典の刊行形態を(論文全文の複写が可能な)雑誌と判断することはできない点などが指摘され、"図書の中に複数の著者による作品が掲載されているもの"とみなされました。
また、争点となった著作権法第31条第1項第1号について、判決では、「図書館に対し、複製物提供業務を行うことを義務付けたり、蔵書の複製権を与えたものではない。」と判断しています。図書館のコピーサービスは、法律の下で限定して行うものだと位置づけられたのです。
詳細:著作権確認等請求事件(平成7年4月28日/東京地方裁判所/判決/平成6年(行ウ)178号)
判例全文はこちら(PDF形式)
論文を転載するとき、許可なく改変できない
どんな内容?:
ある学生が、通っている大学の懸賞論文に応募し、優秀賞を受賞した。その作品を大学紀要に掲載する際、作者の許可なく、53か所の削除や変更が大学側によってなされた。それについて作者は、複製権と同一性保持権を侵害されたとして争った。
裁判では、送り仮名、読点、中黒(・)の変更、改行など、変更内容を7つに分類して目的や必然性が検討された。結果、ほとんどの変更箇所において、同一性を侵害すると判断され、作者側の訴えが認められた。
かんたん解説:
著作権法第20条第1項では、作品を無断で改変できないと定めてありますが、やむを得ない場合のみ改変が認められています【著作権法第20条第2項第4号・同一性保持権】。ただし、何が"やむを得ない"のか、何が同一性保持権の侵害なのかは、個別に判断が必要です。判決をそのまま引用すると、「『やむを得ないと認められる改変』に該当するというためには、利用の目的及び態様において、著作権者の同意を得ない改変を必要とする要請がこれらの法定された例外的場合と同程度に存在することが必要である…」とあり、なんだか長いですが、つまりは、送り仮名や改行などのさして意味が変わらないと思われるような改変でも、よっぽどの必要性がない限り同一性保持権を侵害するので無断で行ってはダメ、との見方を示しています。
詳細:損害賠償等請求控訴事件(平成3年12月19日/東京高等裁判所/第18民事部/判決/平成2年(ネ)4279号)
判例本文は こちら(PDF形式)
引用するとき、要約できる
どんな内容?:
血液型に関する本を出版した作者が、別の本に、自分の本の要約引用と思われる部分を発見し、著作者人格権と著作権が侵害されたと提訴した。判決では、著作権法第32条の引用についての解釈が示され、「他人の著作物をその趣旨に忠実に要約して引用することも許容されるものと解すべきである」とし、作者の訴えは棄却された。
かんたん解説:
改変に対して厳しい判決が出た一方、要約は必要な場合OKという判決が出ました。もちろん、翻訳や翻案は、著者に無断で勝手にできません【著作権法第27条・翻訳権、翻案権等】。しかし要約については、著作権法第32条の引用がOKな場合に当てはめ、正当で、原作の趣旨が正確に反映されていれば、要約引用は可とされました。けれども何が引用で何が改変か、とてもあいまいです。また、別の裁判では、マンガのコマ割りを変えて引用することは改変と判断されました。要約引用する際には、「必要性」と「手法」を注意深く考えるべきでしょう。
詳細:著作権侵害差止等請求事件 (平成10年10月30日/東京地方裁判所/民事第29部/判決/平成7年(ワ)6920号)
判例時報1674号132頁、判例タイムズ50巻6号(991号)240頁
コラム・違反するとどうなるの? |
著作権法に違反するとどうなるか、法律には書いてあるのでしょうか。 #著作権法第119条・(第八章 罰則より) たとえばこちらの長い条文には、10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金が下ると書いてありますが、著作権違反の多くは親告罪(著作権者の申し出がないと警察などが動かない)のため、実際には民事裁判で争われるケースが多いようです。著作権侵害や名誉棄損などで訴訟を起こし、出版の差し止めや、損害賠償を請求するといった事例があります。 |