2023/2/28 UP
こんにちは、ILL係です。
ILL係では古今東西・文系理系さまざまな資料の複写を行っておりますが、
今日は、”複写はしたことがないけれど、よく見かける作家”の話をします。
大町桂月は、その”気になる系”の作家でした。
明治期の「文芸倶楽部」「中学世界」「太陽」といった雑誌に評論や紀行文などを書いており、
しばしば巻頭に掲載されていることから、人気があったと想像できます。
同じ雑誌には幸田露伴、泉鏡花、与謝野晶子、永井荷風などがいて、
彼らの作品には複写の依頼がよくあるいっぽう、作品を見かける頻度のわりに依頼のない大町桂月を
一体誰なのかしら……とうっすら思っていました。
そんなある日、三木清1 の本にこんな一文が。
その時分私は学校の作文では、当時の中学生に広い影響を与えていた大町桂月を読んで、桂月張りの文章を書いていた
三木清 「読書と人生」 p.22, (講談社文芸文庫), 2013
やっぱり!大町桂月は有名作家だった!のちに哲学を志す若者の心をとらえている!
と、興奮したのは言うまでもありません。
せっかくなので調べてみると、
関西大学図書館には随筆や評伝をはじめとした資料が意外に多くありましたが、
CiNii Researchの論文検索では、あまりヒットしません。
しかし、さらに調べたところ、大町桂月研究会が過去に研究本を出版していたり、
高知県には桂月という名のお酒が、北海道には桂月岳という山まであることが判明しました。
なお、所蔵資料の『評伝大町桂月』を読むと、
与謝野晶子とのある論争によって桂月のイメージは国粋主義として決定的になり
今日、桂月及びその文学が抹殺同然に無視され、忘れ去られてしまった
高橋正「評伝大町桂月」[pp.3],1991
と書かれています。現在、彼の作品に複写依頼がないのは、こうした理由からかもしれません。
こんなふうに、ちょっとした”気になる”ことから、
たくさんの資料やデータベースにつながれるのも図書館の魅力です。
気になる何かを探しに、ぜひ図書館を利用してみてください。〔S〕
「中学世界」10巻1号, 明治40(1907)年1月の目次。
大町桂月とともに、新渡戸稲造、竹久夢二、田山花袋、国木田独歩などが並ぶ。
◆紹介した資料の書誌事項
「読書と人生」三木清 [著], 講談社, 2013. (講談社文芸文庫 ; [みL1]).
「中學世界」1卷1號 (明31.9)-, 博文館, 1898.
「評伝大町桂月」高橋正著, 高知市民図書館, 1991.
◇koaLABOガイド「書庫に入るにはどうしたらいい?」
https://kansai-u.libguides.com/c.php?g=753401&p=5396987#s-lg-box-wrapper-20047639
1.
三木清(1897-1945)哲学者。代表的な著作に「哲学ノート」「人生論ノート」など。岩波文庫の巻末「読書子に寄す」の草稿を書いたことでも知られる。