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らいぶらりログ ―ILL係の見た図書館: 消えた指先のゆくえ

日々、文献のコピーと貸借本の発送にいそしむILL係が、作業中に出会った魅力的な情報をレポートします。

消えた指先のゆくえ

2021/8/24UP

こんにちは。皆さんは夏休みをいかがお過ごしですか。

ILL係は季節を問わず、毎日黙々と作業しており、おかげさまで健康です。

 

さて今日は、こんな面白いエラーを見つけました。

人物の手が、のど(本の中心の綴じ部分)にかかって切れているページです。


"The dress of the british seaman Ⅱ" G. E. Manwaring,

「Mariner's mirror」 Vol. 9. No.6, p.163,
Cambridge at the University Press.

これだけ見ると、とくに違和感はありませんが、

指先が……

3ページ先からひょっこり出ています。

私たちもなかなかお目にかかれない、可愛いらしく珍しいエラーです。

 

この資料はリプリント(Reprint)版のため、原資料から画像を取り込む際、もとの図版が大きすぎ、

別のページへはみ出してしまったようです。

ILL係では、こうした”資料の不具合”を見逃さず一旦手を止め

「原本がこんな状態ですが……」と依頼館に確認したりしています。

細かすぎると思われそうですが、研究者にとって重要な図版かもしれないのです。

 

ところでこの、”3ページ先から指先が出ている”ことに注目して

資料ののどをよく見てみると、4枚(8ページ)ずつ糸で縫ってあるのがわかります。

糸かがり綴じという、なかなか手間のかかる本の造り方で、

下図のように真ん中を糸で4枚ずつ縫った束を、さらに糸でかがって本にする方法です。

のどを切ったり糊付けしたりしないので、はみ出た図版が別ページに現れたのですが、

別の製本方法であれば、指はちょこんと出ることなく奥に隠れたり、

ざっくりと裁断されていたかもしれません。

また、もしこれが画集などでは、絵が欠けるのは言語道断。

今回この資料がからくも世に送り出されたのは、学術誌のリプリントだったため

「ま、いいか」となったのでは、と想像が膨らみます。

 

地味ですがとても奥が深い、製本の世界。

来館したらぜひ、さまざまな本の"造り方"にも注目してみてください。〔S〕

 

◆書誌詳細
Mariner's mirror : journal of the Society for Nautical Research
Vol. 1 (1911)-. -- Cambridge at the University Press, 1911.
 別ウィンドウで開く

◇参考資料
製本大全 : 裁つ、折る、綴じる。知っておきたい全技術
フランツィスカ・モーロック, ミリアム・ヴァスツェレフスキー著 ; 井原恵子訳. -- グラフィック社, 2019.
 別ウィンドウで開く

◇ぶらぶらと本を探してみたい人向けガイドはこちら
「なんとなく本を探す」
https://kansai-u.libguides.com/c.php?g=753401&p=5396974#s-lg-box-wrapper-20047630

このガイドの作成者

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図書館  ILL係
ILL係とは、「学外相互利用(ILL)」業務を一手に引き受けている、図書館の中のセクションのひとつです。 もっと気軽にILLを活用してほしいという思いを込めて、いろいろな角度からILLの便利さ、奥深さ、コツ、ツボを、皆さんにお伝えいたします。